個人事業主が法人化するメリットは大きい?迷った時の判断基準とは?
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フリーランスで活動していた方が「この度会社を立ち上げました」と発表するのを見たことがある方も多いかと思います。一見、オフィスを構えたり従業員を雇ったり…という大きな動きもイメージできる会社の設立。実は自分の身ひとつでできる手続きでもあります。
ではフリーランスが会社として活動をする、所謂「法人化」するメリットはどこにあるのでしょうか。
節税や社会の信用を得やすい、といったメリットからデメリットも合わせて紹介します。
個人事業主が法人化する4つのメリット
個人事業主の方が法人化する理由は主に以下4つのメリットから決断される方が多いです。
節税対策になる
税金の話をすると、個人事業主は所得税、法人は法人税というものを納める義務が発生します。この所得税と法人税の仕組みの違いが節税効果に繋がります。
まず所得税は累進課税と言って、所得の大きさによって納める税金の金額も増額されていきます。その税率は最大45%となります。対して法人税は所得が800万円以下の場合は15%となり、800万円を超える場合税率は23.2%となります(資本金が1億円以下の場合)。
つまり、所得の金額がある程度まで大きくなれば個人事業主として税金を納めるのではなく法人化し、法人税として納めることで節税効果が見込めます。
とはいえ、全員に節税効果が期待されるという訳でもなく、所得金額が低い場合は個人事業主として税金を納めたほうが税率が低いこともあります。自身の所得を一度見直してから法人化の検討がおすすめです。
また、計上できる項目にも違いがあります。
個人事業主の場合、「給与」という項目がないので得た売上金から経費を引いて残った金額がそのまま所得税の課税対象となります。
それに比べ、法人化すると会社としての資産と個人が手にする資産を区別することができ、例えば、法人化するときに設定する役員が受け取る「役員報酬」「役員への退職金」というものは計上の項目に入れることができます。その為、残った法人としての所得が課税対象となり節税効果を期待できます。
資産を会社のものと個人(経営者)とで区別できるということは、もし経営が悪化した場合でも法人の出資金の範囲での「有限責任」となります。つまり、税金の滞納や未払い金の負債が経営者個人に支払義務は発生しません。個人の資産は守られるので今後のリスクを見据えるとこの点が法人化のメリットの大きな点とも言えます。
ちなみに、個人事業主の場合は法人の有限責任に対し「無限責任」となるため業務上で発生した負債は事業主本人が請け負う事となります。
消費税の納付が免除される
2年間の年間売上が1000万円を超えると消費税を納める必要があります。 これは個人事業主、法人どちらにも言えることになるのですが、もし個人事業主2年目に入ったタイミングで法人化した場合、法人としての売上が2年間存在しないことになるので納税の時期を後ろ倒しにすることが可能です。
ただ、法人化する際の資本金は1000万円以下とする必要があります。 これは法人1期目の最初の半年間の売り上げが1000万円を超えて、役員報酬を含む人件費が1000万円以上の場合、法人が2期目に入ったタイミングで消費税納税の義務が発生します。冒頭に説明した2年後ろ倒しになる、ということを想定していた場合、予定より早く納税義務が発生するので注意しましょう。
生命保険を経費計上できる
節税対策に関連して、生命保険料を経費として計上できるのも法人化のメリットの一つです。
個人事業主の場合も確定申告をすれば生命保険控除を受けることができますが、保険料の種類によっては契約の際に受取人を個人ではなく法人にした法人契約を結ぶことで経費として保険料の一部を計上できます。
事業を行う上で万が一赤字が続いた場合、法人化することで10年間に渡って黒字の時期と赤字の時期を相殺して法人税の節税をすることができます。個人事業主の場合も確定申告を青色申告をしておくことで赤字を繰り越すことはできるものの、最長3年なので、この点でも法人化のメリットがあると考えることができます。
社会的信用を得やすい
個人の名前での活動に比べ、●●株式会社、といった社名でビジネスをすることで信用を得やすいというのは感覚的にも分かる方も多いかと思います。 決して個人が信用できないというわけではありませんが、実際に取引する上で個人よりも企業と行う方が心理的に安心と感じる人は少なくないのではないでしょうか。
聴こえだけの印象の話ではなく、法人化する際には社名に加え資本金や住所等の登記を行う作業が伴うのでやはり個人事業として活動をすることに比べて信用の度合いが強まります。
また、中には法人とのみ業務提携を行うといった企業もありますので、自身のビジネスの選択肢を広がるきっかけにも繋がります。
法人化に迷った時の判断基準
法人化するには費用や手間がかかる点がありますが節税対策や今後のビジネスの選択肢が増えるといった大きなメリットもあります。とはいえ、自分はどのタイミングで法人化するべきなのか分からないという方もいらっしゃるでしょう。
そこでここでは、法人化に踏み出す際に参考になる判断基準をご紹介します。
事業所得が695万円を超えたとき
所得によっては法人化した方が課税の面で良いと判断できる場合があります。 そのボーダーラインとなるのが所得が695万円かどうか。
個人として事業所得が695万円以上だと所得税は23%となります。 対して資本金1億円以下の法人だと、所得が800万円以下であれば法人税が15%です。
同程度の所得でも法人の方が税率が低くなるため、自身の所得額に応じて法人化を考えてみるといいでしょう。
2年前の売上が1000万円を超えるとき
個人事業主の場合も法人の場合も、年間売上が1000万円を上回るとその2年後に消費税の納税義務が発生します。 しかし、個人事業主から法人へ移行することで2年間の納税が免除されます。
節税目的で法人化を考えている場合は2年間の売上を目安に検討するのがおすすめです。
事業の幅を広げたいとき
個人事業主として契約できる企業は限られています。 今後の展開や成長を見据えて取引をしたい企業があるのであれば法人化することで自身の選択肢が広がるでしょう。
また、社名を持つことで社会的信用も上がるので事業を行う上で良い話が来ることや、資金調達の際に施策を行いやすいという点も挙げられます。
法人化する際に知っておきたいデメリット
法人化することによって個人事業主では発生しなかった処理や納税が発生します。
デメリットとも言えますが経営の上で必要な情報となるので、メリットと合わせて理解しておくことが大切です。
法人化の際に費用がかかる
法人化する際の手続きの一つに法務局への法人登記という処理があります。この時、登録免許税が発生します。この金額は法人の形態によって異なり、
株式会社:資本金×0.7%、もしくは算出金額が15万円に満たない場合は15万円
合同会社:資本金×0.7%、もしくは算出金額が6万円に満たない場合は6万円
と、最低6万円が必要となります。
利益が無くても税金が発生する
地方自治体に納める「法人住民税」という税があります。
この税には会社の利益に紐づいて計算される「法人税割」と資本金や従業員数によって金額が定められる「均等割」の2種類が含まれています。つまり、赤字の場合は法人住民税の法人税割、という部分に納付は発生しませんが、法人住民税の「均等割」については納める必要があります。
個人事業主の場合は決算で赤字になっていた場合は所得税と合わせて住民税が0円となるのでこの部分は法人化のデメリットとも言えます。
保険に加入しなければならない
法人には健康保険、厚生年金保険といった各種社会保険への加入が義務付けられています。
会社にお勤めの経験がある方ならお馴染みかもしれませんが、このような保険料は給与から天引きされています。これは企業が社会保険に入っているからに他なりません。
加えて社会保険への加入には手続きが必要となるので、それに伴って事務作業が増えます。
個人事業主から法人化するまでの手続き
法人化には様々な設定、手続きが必要となります。
順番は明確に決まっているわけではありませんが、以下の通りに行うとスムーズに法人化を進められるかと思いますので、参考にしてみてください。
会社名の設定
会社名は自由に決めることができるので胸を躍らせる方もいるかと思います。おそらく法人化で一番楽しい部分ですが、いくつか注意が必要です。
会社の商号として使える文言には制限があり、大手企業や銀行、学校を思わせる名称を付けることが出来ません。また、同業他社と区別をつけることや商標権、著作権を侵害しない配慮も必要となります。イメージをしている方もいるかもしれませんが会社名の前後には「株式会社」といった法人格を付けます。
もちろん後ほど社名の変更をすることは可能ですが再度登記の手続きの必要があるためできるだけ最初の段階で注意し名称を定めましょう。ちなみに個人事業主の屋号を引き継ぐことも可能です。
事業内容の設定
自分の会社がどういった事業を行って何を目的とするのかを明確にする必要があります。
既に今後のビジネスのビジョンを見据えている場合は改めて準備をする必要はないですが、この内容は後述する定款に記載する際に必要となります。その為、曖昧な内容のサービスや方向性を決めかねている場合はできるだけ分かりやすく完結に事業内容を説明できるようにするとスムーズに各書類を作成することができます。
また、事業内容が多岐に渡り分野も大幅に異なる場合は社会的信用が得にくい状態になってしまうので、注意が必要です。
本店所在地の設定
登記申請の際に会社の住所を記載する必要があります。特にオフィスを構えていない場合は自宅やレンタルオフィスの記載でも問題はなく、比較的自由に決めることができます。
また、後で変更する場合は本店移転登記手続きを踏めば修正も可能です。
役員構成の設定
株式会社を設立する場合、役員数と株主の構成を設定します。複数人必要そうにも見えますが、取締役と監査役を1名で定めることも可能です。
また、役員の設定に伴い、役員報酬も合わせて決める必要があります。従業員の給与とは別の項目となり、経費として計上することが出来ません。
その為、新たに会社を設立する際は負担にならないか、税制面で問題がないかを考慮して設定する必要があります。
資本金の設定
企業のサイトでよく目にする資本金。これは会社を設立した際の最低出資額となり信用度を示すうえで重要な項目です。
法律上、極端に言ってしまえば1円~資本金として会社の設立を行うことも可能です。
ただ、あまり少ない金額の場合会社の信用を得ることが難しくなるので今後の運営を考えるとある程度の額を設定していると安心です。資本金1000万円未満の企業の場合、消費税の納税を2年免除されるというメリットもあるので自分の事業にあった資本金を準備するのが適切です。
決算日の設定
これは必須ではなく法人化することで設定が可能になる項目です。設定する場合は企業の繁忙期と重ならないよう書類の手続きが都合の良い日を設定しましょう。
法人用の実印の用意
2021年より設立登記をオンラインでできるようになったため印鑑の準備は任意となりましたが、会社設立に伴って実印が必要となる場面は多いです。銀行口座の開設や契約ごとをスムーズに進められるよう実印の準備をしておきましょう。
定款の作成
会社の憲法とも呼ばれる定款は決まったフォーマットはないものの、従業員の雇用やあらゆる契約を行う上で重要な会社の運営ルールが記載されたものです。
作成には時間がかかるため早めに取り掛かりましょう。株式会社の場合は公証役場の認証をもらう手続きが発生します。
個人事業の廃業手続き
法人を設立出来たら管轄の税務署に「廃業届」を提出し個人事業を廃業する手続きが必要となります。
合わせて、青色申告をしていた場合は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」と従業員への給与の支払いがあった際は「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書」藻提出します。
なお、個人事業を廃業したその年の確定申告は必要となるので忘れないようにしましょう。
資産の引継ぎ
気になるのが資産の引継ぎ。引継ぎの方法としては売買契約、現物出資、賃貸契約の3つの形があります。それぞれ手続きも異なれば税法上の取り扱いも異なるのでどの方法で手続きを進めるかに合わせて確認が必要です。
もし負債も移行する場合は「免責的責務引受」の手続きを進めます。
契約物の名義変更
個人事業の際に契約をしていた賃貸や取引に使っていた銀行口座の名義を個人から法人へと移行手続きを行います。場合によっては、新たに法人名義の口座を開設しましょう。
メリットデメリットを考えて法人化を判断しよう
個人事業主を長く続けていると「どのタイミングで法人化しよう?」と考えるときがいつか来るはず。その際の検討材料として法人化のメリットや判断基準、そして抑えておくべきデメリットをご紹介しました。
おそらく1番のメリットとして挙げられるのが課される税金のあれこれ。少しでも節税したいのであれば、ご自身の所得や売上を理解したうえで法人化を検討するのが最適だといえます。
特に現在個人事業主の方は、ぜひ本記事を参考に法人化を考えてみてください。