ランチェスター戦略に学ぶ中小企業がとるべき経営戦略とは?
- 投稿日:
日本の企業のうち9割は大企業ではなく中小企業と言われています。しかしながら、私たちの生活で目にする企業の名前は有名企業の数社です。知名度から見ても大企業のインパクトの大きさは感じられるかと思います。
そのような経験から中小企業は大企業には劣ってしまうと当然のように考えてしまう方も多いのではないでしょうか。
人数やリソースが少ない中小企業は大企業に勝ち目がないと思われがちですが、実は正しい戦略を選択することで十分同じ市場で戦うことができます。ビジネス戦略を考える上で基本の知識となる「ランチェスター戦略」について今回は紹介します。
ランチェスター戦略とは?
ランチェスター戦略とは「強者は強者なりの」「弱者は弱者なりの」戦い方があるとして、戦い方を分析、立案する方法の事です。
決まった勝ち筋のモデルがある訳ではなく、あくまで”考え方”の理論を示す用語です。
ランチェスターの法則
ランチェスター戦略はイギリスのフレデリック・ランチェスター氏によって第一次世界対戦時に提唱された「ランチェスターの法則」が元になっています。もともとこの法則は軍事戦略モデルとして生まれましたが、現在はマーケティング用語として使われています。
ランチェスターの法則の中身は意外とシンプルで「戦闘力=兵力の質×量」で表される数理モデルが基本となっています。
つまり、兵士それぞれの能力と人数によって強さが決まる、と定義されています。ビジネスに置き換えると、社員のスキルとその人数によって強さが決まるとも言えます。
戦闘力が優勢な組織を「強者」、戦闘力が劣る組織を「弱者」としたときにそれぞれがどう戦えば自分たちに有利に戦局を運べるのかを考える戦略論が「ランチェスター戦略」です。
そしてこの法則は弱者向きの戦略を表す「第一の法則」と、強者向きの戦略を表す「第ニの法則」の2つで成り立っています。
ランチェスター第一の法則
簡単に言うと第一の法則は一騎討の戦法。狭い範囲で剣で戦う、つまり原始的な接近戦を想像させるものです。
この第一の法則は「弱者の戦い方」として考えるべき法則で、例えば少数精鋭の中小企業の戦略を立てる際に有効な考え方です。
ランチェスター第一の法則では
人数×武器性能=戦闘力
という式で戦闘力を算出します。
もし同じ武器を手にした軍同士が戦ったとしたら人数差によって勝敗が決まってしまいます。一見当たり前のこの法則。第一の法則がどうして中小企業向けの戦略となるのか。
例えば、社員数10人のA社と社員数5人のB社があったとします。
A社B社、共に社員のスキルが5だとすれば
A:10×5=50
B:5×5=25
で、50の戦闘力を有するA社が優勢なのは明らかです。
しかしながら、もし人数の少ないB社の社員個人個人の能力が15だとすれば
A:10×5=50
B:5×15=75
となり、B社の戦闘力が優勢となります。
例え話として5や15という能力数を出しましたが、これは人数の少なければ、大企業に勝てるように3倍働けばいいのか、という話では決してありません。
デジタル化が進む現代、クラウドツールや広告媒体といったものをうまく使えることが出来れば生産性や効率性を飛躍させ1人当たりの能力数を上げることは難しくないでしょう。
また、第一の法則は接近戦で有効な方法です。人数の多い軍勢と1対1で戦った場合、1人の能力が高ければ人数の少ない軍勢の勝率も上がります。
これをビジネスに置き換えた場合、一点集中で戦えば人数不足というハンディキャップ関係なく戦略を立てることができます。
例えば痒い所に手が届くような商品を生み出すことや大企業が見落としている客層に商品を届けることができます。このような理由から第一の法則は中小企業に適した考え方と言えます。
ランチェスター第二の法則
一方、第二の法則は既に優勢な立場にある者が格下の相手が迫ってくるのを防ぐような戦略になります。もともとは広範囲の戦場で銃を使った遠距離攻撃を想定した戦略で
戦闘力=兵力の2乗×武器性能
の式で戦闘力が表されます。
第一の法則と異なり乗数が出てくるので少し複雑に見えますが、これは広範囲で飛び道具を使って遠距離攻撃を行うと相乗効果が発生するといった考え方からです。
広範囲の戦場を想定したこの法則、手にする武器を刀ではなく近代的なマシンガンと考えると手数が増え一人で攻撃する相手も増えることになりますよね。
第一の法則では一人で一度の攻撃しか出来ないとの考え方でしたが、戦うフィールドが大きくなる第二の法則ではこの2乗が特徴的な戦闘力の出し方となります。
ビジネス戦略に置き換えると、第二の法則が強者の為の戦略と言えるのは非常にシンプルで、社員数が多ければ他に比べて圧倒的な戦闘力となり他と差を大きくつけやすくなります。
人材も資金も影響力も大きい先行企業や大企業はその圧倒的な力を使える広範囲のエリア、広範囲の市場にサービスを展開することがトップを独走する戦略となり他を寄せ付けない存在となります。
大企業が大々的にweb広告を打ち出し芸能人でPRをしたとしたら、中小企業が同じ広さでサービスを打ち出すことはほぼ困難でしょう。
ここまでランチェスター理論において大企業が「強者」中小企業が「弱者」という位置づけに見えてくるかと思います。しかしながら、市場に置いての強者弱者は社員数や資金の大きさではなく、そのサービスのシェア率によって決まります。
マーケットシェア理論
マーケットシェア理論はランチェスター戦略を元に提唱された理論です。
マーケットシェア理論は市場での強者弱者、つまりその地位をシェア率によって判断するものです。では何をもってシェア率を確認するのか。物差しとなる考え方として「7つのシンボル目標」、クープマン目標と呼ばれるものがあります。
7つのシンボル目標(クープマン目標)
ランチェスターの法則を元にコンサルタントの田岡信夫氏によって設定された数値で、シェア率を7段階に区切り、自社はどの層にいるのかを確認することで実践的な戦略を立てることができると言われているものです。
シェア率73.9%を上限として独占市場シェア、相対的安定シェア、市場影響シェア、並列的上位シェア、市場的認知シェア、市場的存在シェア、市場橋頭保シェアに分けられます。
①シェア73.9%:独占市場シェア(上限目標値)
シェア73.9%の場合独占市場シェアに分類されます。
この率はシェアを独占出来ているとされる上限の値です。2位以下にその地位を脅かされる可能性は極めて低いですが、新技術の誕生や異業種の参入によってその価値は下がる可能性があります。このことから1社による独占というのが難しいことが伺えるかと思います。
②シェア41.7%: 相対的安定シェア(安定目標値)
シェア41.7%を獲得できればかなりその地位は安定することから安定目標値と言われます。
ランチェスター戦略では4社以上の競争となるので40%を超えると十分圧倒的な地位にいるということになります。2位以下とかなり引き離している状態になるので、首位独占を目指す場合はまずこの数値を多くの企業が目標とします。
③シェア26.1%:市場影響シェア(下限目標値)
シェア26.1%の場合市場影響シェアとなります。下限目標値とも呼ばれ、業界トップを目指す場合はこの値を最低でも獲得したい数値です。
しかしながら26.1%という数値は2位と僅差になっていることが予想されます。現状シェアトップだったとしても安定せず、競合他社や他業界と立場がとってかわる可能性があります。
④シェア19.3%:並列的上位シェア(上位目標値)
シェア19.3%のことを差し、新規参入企業がまず狙うのがこの目標数値です。多くの場合このシェア率を獲得できれば上位3位に入ることができます。上位企業と差を縮められつつあるので1位の座に付く為に戦略を変えるタイミングとも言えます。
⑤シェア10.9%:市場的認知シェア(影響目標値)
シェア10.9%に達すれば競合他社や顧客から存在を知られていることになります。「10%足がかり」とも言われ10%を超えると本格的に同業他社との競争が始まります。反対に、このシェア率に到達するまでは市場で認知されていないということになります。
⑥シェア6.8%:市場的存在シェア(存在目標値)
シェア6.8%は市場で認識されているものの、競合他社からはそれほど脅威があるとみなされておらず、影響力はありません。他社の戦略や顧客層について思考を巡らせるのではなく、自社製品の売り込みに力を入れる時期です。また、この数値を下回ると市場から撤退を判断する企業もおり、最低限確保する数値とも言えます。
⑦シェア2.8%:市場橋頭堡(きょうとうほ)シェア(拠点目標値)
シェア2.8%は市場において存在価値がないに等しい数値ですが、新規参入企業がまず目指す所です。市場参入が出来たとも言える状態なのでこれから各社との競争が始まっていく段階です。
ランチェスター戦略の抑えたい3つのポイント
No.1主義
ランチェスター戦略では市場におけるシェアによって「強者」「弱者」に位置づけを行います。2位では意味がない、と言えてしまう程1位と2位の間に差が生まれると考えられています。
出来る限り上位に、ではなくどうしたらシェアNo.1になることができるのかを考えることがランチェスター戦略では基本となります。
一点集中主義
弱者の戦い方、第一の法則の通り、狭い範囲で戦うことで弱者にも勝ち目があります。その為、広く見るのではなく、限られたエリアに一点集中し戦略を立てることが重要です。攻撃目標を1つに絞りその市場で1位を達成するまで攻撃を続けます。
足下(そっか)の敵を攻撃
自社がNo.1となる場合、自分より格上の相手を攻撃するのではなく、ワンランク下の敵から顧客やノウハウを奪います。その方が体力の消耗もなく勝率が高い上に自社の成長の伸びも期待できます。
ランチェスター戦略を用いた中小企業の戦略
ランチェスター戦略で目指すところはシェアNo.1となることです。ただ単純に社員数を多くすることや社員の能力を底上げするのではなく、自社の立ち位置を理解し適切な戦略でシェア率を上げることが重要です。
ランチェスター戦略での強者は人数が多い会社ではなく、特定の市場でシェアNO.1の企業を強者と言います。もし自社のシェア率が低く決して強者とは言えない場合はまずはニッチな小さな分野で1位となることがランチェスター戦略での本領といえます。
弱者の戦略
シェア率が低い企業を弱者とした場合、広範囲のエリア、多くのターゲット層に向けた戦略は効率的とは言えません。第二の法則であったように、広範囲での戦場となった場合は資金も人員も多い大企業には勝ち目がないからです。
「クラウドツール業界でトップを目指す」のではなく、更にターゲットとする業種や職種、年齢を絞る…といった形で、中小企業の場合は局地戦に挑むことが有効的です。
狭い範囲であれば今ある資本力で持てる戦略や社員の能力で十分戦うことができます。
局地戦に踏み入れるにはまず戦うべき環境を選ぶ必要があります。
ポイントとしては4つあり、
・局地戦:エリアや市場を限定的にする
・接近戦:顧客と直接のコミュニケーションを重要視
・一点集中:目標を定め、一つに向かって責める
・陽導線:競合他社が目を付けてないような所、裏をかく
このようなポイントを意識した戦い方が重要です。
強者の戦略
対して十分にシェアを持っている場合は出来る限り2位と引き離すことが先決です。
意識すべきことは
・広域戦:web広告の打ち出し
・遠隔戦:フランチャイズや支店を使って顧客にアプローチ
・確率戦:広くアピールし顧客との接点を増やす
・誘導戦:弱者との比較を利用し自社の強みを前面に出す
といったことになります。
目まぐるしく新技術が表れる時代。後発的なサービスに立場が奪われることがないよう戦略を立てることが重要になります。
まとめ
ランチェスター戦略は弱者が強者に勝つ唯一の考え方とも言われ、市場競争で勝ち残るためには大変重要な考え方です。この理論を用いて今の自社の立ち位置や市場での独占率を見直してみるのも良いかもしれません。