アンゾフの成長マトリクスとは?4つの戦略や多角化方向性を企業事例を交えて分かりやすく解説
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ビジネスの成長を戦略的に考える際、「アンゾフの成長マトリクス」は欠かせない分析フレームワークの一つ。
「市場」と「製品」、「既存」と「新規」の軸から導き出される4つの成長戦略を通じて、事業の方向性を明確化できます。
この記事では、アンゾフの成長マトリクスの概要と各戦略の違いを整理し、実際の事例も交えてわかりやすく解説します。
- アンゾフの成長マトリクスとは
- アンゾフの成長マトリクスにおける4つの成長戦略 – 1.市場浸透(既存市場×既存製品)
- 多角化戦略を細分化したときの4つの方向性 – 1.水平型多角化
- アンゾフの成長マトリクスを活用するメリット – 企業の進むべき道筋が明確になる
- アンゾフの成長マトリクスはどんな時に使える? – 既存事業が伸び悩んでいるとき
- アンゾフの成長マトリクスの上手な活用法 – 市場の細かなニーズまで分析する
- アンゾフの成長マトリクスのまとめ
– 2.新製品開発(既存市場×新規製品)
– 3.新規市場開拓(新規市場×既存製品)
– 4.多角化(新規市場×新規製品)
– 2.垂直型多角化
– 3.集中型多角化
– 4.集成型多角化
– 自社の強み・弱みが分かる
– 事業を計画的・効率的に進められる
– 新規事業に挑戦するとき
– 発生コストに即して考える
アンゾフの成長マトリクスとは
アンゾフの成長マトリクスとは、企業が成長を図る際に活用するフレームワークです。
「戦略的経営の父」として知られるロシア系アメリカ人の経営学者イゴール・アンゾフの1965年の著書『企業戦略論』にて提唱され、その名前が付けられました。
アンゾフの成長マトリクスは、企業が新しい市場や製品を通じて成長する戦略を体系化し、
「市場浸透」「新製品開発」「新規市場開拓」「多角化」の4つの戦略に分類しています。
このマトリクスは、企業がどの方向に進むべきかを可視化し、最適な成長戦略を選択する手助けをしてくれます。
経営戦略立案において現在でも広く活用されているフレームワークです。
アンゾフの成長マトリクスにおける4つの成長戦略
アンゾフの成長マトリクスは、市場と製品の2つの軸を、さらに既存か新規かで分割し、以下のような4象限に分けたフレームワークが一般的です。
それぞれの成長戦略について一つずつ説明していきます。
1.市場浸透(既存市場×既存製品)
市場浸透は、既存の製品をこれまでと同じ市場に対してより販売していく戦略。
製品の認知拡大施策を実施して、市場におけるマーケットシェアを獲得し販売数や売上の向上を狙います。
浸透という言葉の通り、市場にて既存顧客からの購入される数、頻度、単価をいかに増やしていくかが戦略成功の要になってきます。
例えば、ファストフードチェーンであるマクドナルドの「朝マック」というプロモーション。
「ハンバーガーは昼・夜の食べ物」という固定観念を壊して「朝食」という形で顧客の購入機会を創出しました。
結果、購入頻度を増やすことに成功し売上向上に至っています。
市場浸透戦略は、既存市場の中でどうやったら製品の新たな価値を創造できるかがカギといえるでしょう。
2.新製品開発(既存市場×新規製品)
新製品開発は、新たに開発した製品やサービスを同じ市場に対して販売していく戦略。
既存の製品では解決できなかったニーズを解決できる新製品や競合他社にはないサービスをローンチし、同一市場での売上を増やしていきます。
コカ・コーラ社が開発・販売した「コカ・コーラ ゼロ」は新製品開発戦略の成功事例の一つ。
はじめはダイエット コカ・コーラを販売していたものの、風味が変わったため既存の顧客には響かない製品となっていました。
そこから「健康は意識したい、けどいつもの味のコーラが飲みたい」というリアルなユーザーインサイトにたどり着きました。
その結果、カロリーをゼロにしつつオリジナルと味が変わらない「コカ・コーラ ゼロ」を生み出し、ヒットさせました。
この戦略ではいかに市場ニーズを理解して製品に落とし込めるかが重要になってきます。
良く知る市場やターゲットであっても、事前の分析や競合調査は行うようにしましょう。
3.新規市場開拓(新規市場×既存製品)
新規市場開拓は既存の製品を全く新しい市場にまで広げていく戦略。
製品を変えずターゲットを変えることで、新たな顧客からの売上増加が狙えます。
売れる市場やターゲットを見つけられるかが、新規市場開拓戦略における重要な要素。
戦略を展開する前に綿密な市場調査が不可欠といえます。
その具体例として、ボディケアブランドの「シーブリーズ」が挙げられます。
かつてはマリンスポーツファンの男性がターゲットでしたが、2000年代初頭から高校生(特に女子高校生)にターゲットを大きく変更しています。
伴って利用シーンも海から街に、利用目的も部活後の制汗剤というイメージで訴求する広告やプロモーションが奏功し、低迷していた売上のV字回復に成功しています。
4.多角化(新規市場×新規製品)
多角化は、新しい製品を新しい市場に売り出す戦略。
これまでに紹介した3つの戦略と異なり、市場も製品も一新して事業を展開していきます。
全くの新領域に飛び込むのは企業としてもリスクが伴いますが、新たな収益の柱を作る、事業経営のリスク分散といった観点から取り組む企業も少なくありません。
代表的な成功事例でいうと「富士フイルム」の化粧品事業への参入が有名です。
社名の通り、もともと写真用のフィルム事業を主戦場としてきた富士フイルムでしたが、デジタルカメラの登場・普及により需要が減少。
そうした市場の変化に先駆け、フィルム事業の技術・研究・知見などを応用し、化粧品開発に昇華させていきました。
高い技術による機能重視の製品は、既存の美容市場でも差別化でき、事業成功に至っています。
このように既存事業で培った技術やノウハウが生かせる新規事業であれば、たとえ後発でも戦略次第で競争できるといえます。
多角化戦略を細分化したときの4つの方向性
前章で紹介した多角化戦略をさらに細分化すると次の4つの方向性に分類されます。
そもそも多面化戦略は、簡単に言えば「新しい事業を展開していく戦略」ということになるのですが、一口に新しい事業といっても様々なアプローチがあります。
- 水平型多角化
- 垂直型多角化
- 集中型多角化
- 集成型多角化
これらの方向性を知っておくことで、自社にとって最適な事業が見つけやすくなるはずです。
1.水平型多角化
水平型多角化は、既存事業と関連性の高い製品を既存市場と類似した市場で展開する戦略です。
自動車メーカーがバイクを作って販売するように、すでに持つノウハウを活かせます。
既存事業から横展開するようなイメージで、比較的リスクを抑えた新規事業の立ち上げが可能。
関連性も高いことから既存事業とのシナジー効果も期待できる戦略です。
2.垂直型多角化
垂直型多角化は、既存事業の上流・下流に事業展開していく戦略です。
製品の製造から販売までを縦に並べたときに一番上に来るのが部品製造で上流、一番下が販売で下流です。
先述の自動車メーカーの事例でいえば、自動車を作る際の部品製造を自社で事業化したり、販売事業を立ち上げ販売まで自社で完結させたりする戦略です。
製品自体の関連性はあるものの、事業展開には新たな技術やスキルが必要となるため、設備・導入コストが発生します。
3.集中型多角化
集中型多角化は、既存事業で得た技術を応用し、新しい領域・市場に展開していく戦略です。
今ある技術で何か新しいことはできないか、他にどんな活用方法があるかを模索することがカギといえます。
先の富士フイルムの事例はまさにこの集中型多角化であり、フィルム事業の技術を使って化粧品市場という全く新しい領域に進出しました。
既存技術を使うことから、開発リソースを抑えられます。
また既存技術を他分野へ応用することで、これまでになかった革新的なイノベーションが生み出せる可能性も秘めています。
4.集成型多角化
修正型多角化は、既存事業と関連性なく、全く新しい製品を全く新しい市場に展開していく戦略です。
正真正銘、新しい事業に挑戦する戦略で、最も難易度の高い戦略といえます。
食品メーカーが不動産領域に参入するなど、これまでの事業とは無関係な業界に飛び込んでいくイメージです。
製品開発も市場開拓も一からやらなければならないため事業立ち上げそのもののリスクは高めですが、企業全体で見たときの経営リスクの分散ができるなどのメリットがあります。
また、集成型多角化はコングロマリット型多角化とも呼ばれ、「コングロマリット」は多分野にまたがって事業展開を行う企業という意味があります。
アンゾフの成長マトリクスを活用するメリット
ここまで、アンゾフの成長マトリクスについて解説してきました。
次に、このフレームワークを活用することでどんな利点があるのか掘り下げていきます。
企業の進むべき道筋が明確になる
アンゾフの成長マトリクスは、市場と製品の2つの面から検討し、事業の成長戦略を導き出すというもの。
それには、緻密な分析が不可欠となります。
その分析結果からどんな戦略がとれるかが整理でき、実現可能性のある事業展開が行えます。
アンゾフの成長マトリクスを使うことで、今後の事業成長に際して合理的な選択が可能になるといえるでしょう。
自社の強み・弱みが分かる
アンゾフの成長マトリクスを活用することで、自社の強みと弱みを把握することができます。
例えば、既存市場における「市場浸透」戦略を選ぶ場合、自社の強みが競争優位にどれだけ影響しているかが浮き彫りになります。
一方で「多角化」戦略をとる際には、新しい市場や商品に対して自社の技術力やリソースが不足している場合、その弱みが可視化されるでしょう。
アンゾフの成長マトリクスは自社の強みや弱みを整理し、適切な成長戦略を立てるための有効なフレームワークです。
事業を計画的・効率的に進められる
アンゾフの成長マトリクスは、事業戦略を計画的かつ効率的に進める助けとなります。
各戦略を選ぶ際にどんなリスクがあるのか、どんなリソースが必要かが明確になるため、無駄な試行錯誤を減らし、限られた資源を最大限に活用できます。
例えば、市場浸透戦略では既存の強みを生かして効率よくシェア拡大を狙え、多角化戦略では新しい市場で成功するための具体的なステップを計画できます。
これにより、戦略的な判断が迅速になり、事業を効率的に進められるのです。
アンゾフの成長マトリクスはどんな時に使える?
アンゾフの成長マトリクスは、事業拡大や新たな成長戦略を検討する際に非常に有効です。
では具体的にどのようなタイミングで活用できるのか、ケースに分けてご紹介します。
既存事業が伸び悩んでいるとき
進めている事業の将来性に不安を感じたとき、アンゾフの成長マトリクスの使い時です。
今の事業を深堀するべきか、思い切って転換するべきかなど、どのような方向に舵を切るかを選ぶのは、今後の企業成長においてかなり重要な要素といえます。
そのようなときにアンゾフの成長マトリクスを活用することで、4つの戦略の中でどれを選ぶのが最適なのかを可視化された状態で決めることが可能。
伸び悩んでいる今の状況を打開できる戦略を見つけるのに活用できるでしょう。
新規事業に挑戦するとき
新規事業に挑戦する際、アンゾフの成長マトリクスは非常に役立ちます。
新市場開拓や新製品開発、多角化といった新規事業の方向性を具体的に検討するためのフレームワークとして、どの戦略が自社にとって最適かを明確にできます。
たとえば、既存のリソースを活用しながら新しい製品を開発するのか、全く異なる市場に進出するのかを判断する際、リスクとリターンのバランスを考慮して計画を立てることができます。
アンゾフの成長マトリクスにより、事業拡大のプロセスがよりスムーズに進行できるはずです。
アンゾフの成長マトリクスの上手な活用法
アンゾフの成長マトリクスを用いて戦略を策定する際には、ちょっとしたコツがあります。
実際に活用するときには以下のポイントに抑えておくとベターです。
市場の細かなニーズまで分析する
アンゾフの成長マトリクスを上手に活用するには、市場の細かなニーズまでしっかりと分析することが重要です。
当然ながら分析を怠ると、市場のニーズとズレた事業を始めてしまいます。
本来あるニーズに応えられない製品を新たにローンチしても、伸びる可能性は低く失敗に終わってしまいかねません。
既存・新規に関係なく市場の特性やトレンド、消費者の購買行動を詳細に調査することで、より精度の高い戦略を策定できます。
アンゾフの成長マトリクスは、こうした分析を通じて事業の成功につなげることができます。
発生コストに即して考える
新たな事業を始める際には必ずといっていいほどコストが発生します。
特に新サービスや新製品を開発するとなれば、ある程度まとまった費用がかかるのは想像に難くないでしょう。
アンゾフの成長マトリクスにおける4つの戦略においても例外ではありませんが、戦略によってかかるコストは異なります。
想定コストはどれくらいか、実践してどれくらいのリターンが見込めるのかをひとつの視点として考えると地に足をつけた戦略立案・実行に移せるはずです。
アンゾフの成長マトリクスのまとめ
アンゾフの成長マトリクスは、企業の成長を効果的に進めるための重要なフレームワークです。
市場浸透、新製品開発、新規市場開拓、多角化の4つの戦略を駆使することで、企業は既存資産を活かしつつ新たな成長機会を見出せます。
どの戦略を選ぶかは、企業の現在の状況や市場環境によって異なりますが、明確な指針を持つことで、リスクを管理しながら持続的な成長を目指すことができるでしょう。